【開催報告】令和3(2021)年度 YOKOHAMA D-STEPシンポジウム

令和4年2月4日(金)に、横浜市立大学みなとみらいサテライトキャンパスを拠点にオンライン形式で「これからのデータサイエンス教育を考える」をテーマにシンポジウムを開催しました。
本シンポジウムは、横浜市立大学が文部科学省採択事業「超スマート社会の実現に向けたデータサイエンティスト育成事業」の中心となるYOKOHAMA D-STEPプログラムの一環として開催し、「大学院修士レベルでどのような教育が必要か」について議論しました。当日は約200名の方にご参加いただきました。
開会の挨拶
坂巻顕太郎先生(横浜市立大学データサイエンス推進センター准教授)の司会進行で幕をあけ、立川仁典先生(横浜市立大学データサイエンス研究科長・D-STEP事業責任者)の開会挨拶では、横浜市立大学データサイエンス研究科において「文理融合」「現場重視」「国際水準の英語力」を特色とした教育を実施していること、全学的なデータサイエンス教育としては、令和元年度から課題探求科目「データサイエンス・リテラシー」の受講を全学部生に推奨していることについて報告がありました。また学内外の学生や社会人に対するデータサイエンス教育として本プログラムYOKOHAMA D-STEP(文理融合・実課題解決型データサイエンティスト育成プログラム)を実施するとともに高大連携事業として横浜市立高校への教員派遣や情報科教員対象研修を企画、運営していることについて紹介がありました。


サテライトキャンパス配信会場

講演1
1つ目の講演では、坂巻顕太郎先生から、データサイエンス教育について発表がありました。
文部科学省は大学院修士レベルの教育を「学術の深奥を極めるための教育研究」と位置づけ学術を重視しており、そのような中でデータサイエンス教育には様々な目的があるため、どのようなターゲットを対象に教育を行うかを考えることが重要との問題提起がありました。
データサイエンスには様々な領域があり、①統計的な観点②コンピュテーショナルな観点③人間的視点が必要であること、またデータサイエンス教育には、様々なレベル(小中高校、大学、大学院)があり、内閣府が発表した「AI戦略2019」では、各レベルで必要な教育について提示されていると説明がありました。
横浜市立大学大学院データサイエンス研究科においては、①必要なスキルの習得②データへのアプローチ法③応用的な側面等の理論に関する教育を行っていることについて報告がありました。またD-STEPは、通年コースとしてデータサイエンス研究科の講義を切り出し、受講生に大学院修士レベルの教育を提供するとともに、短期間のコースとして非データサイエンティストを対象としたCコースを実施し、データサイエンスに関心を持った受講者を通年コースやデータサイエンス研究科に誘導し、社会にデータサイエンスを広められるよう取り組んでいることについて紹介がありました。
講演2
2つ目の講演では、清木康先生(武蔵野大学大学院データサイエンス研究科長)から、令和3年度に設置した武蔵野大学大学院データサイエンス研究科修士課程、令和4年度設置予定の博士課程、大学院と並行し設置したアジアAI研究所(※以下、AAII)を連動したグローバルなデータサイエンス教育について発表がありました。
データサイエンス研究科における大きな5つの目標として、①データサイエンス新理論、新モデル、新システムを創造発信し、国際的に活躍するリーダーを育成、②研究・教育を実現する研究プロジェクトによる人材育成、③複数教員と学生が一体となったプロジェクト環境を整え教育のパフォーマンスを上げ、国際化を推進、④社会的・文化的知能の形成、最新技術の連携によるグローバル・システムの実現と発信、研究・教育の両輪による国際的リーダーとなる人材の育成、⑤実践的システム(経済的、社会的、環境的価値の発信)の社会への展開を掲げているとの説明がありました。
また、武蔵野大学大学院データサイエンス研究科の主要3基軸として「データサイエンス技術」「データサイエンス応用」「ソーシャルイノベーション」を掲げ、3基軸に対応するコースとして①AIクリエーションコース(データサイエンス、AIの応用系)②AIアルゴリズムデザインコース(アルゴリズム、AIの基礎技術の設計)③ソーシャルイノベーションコース(応用系を反映した社会的な活動を設計)を設置し、新たな教育研究システムを構築し、国際的な大学や研究機関、企業と連携することによりDS指向・先進的リーダーとなる人材の育成を目指しているとの報告がありました。
研究体験型連動学修の例として、「プラスティック廃棄物の世界的規模での削減を目指す環境情報システムの構築」プロジェクトにおいて、国連UN-ESCAPにおけるタイ、マレーシア、ベトナム、インドネシアの川や海での海洋プラスティック廃棄物問題への取組みを紹介し、①学生がオリジナルコアとなるものを獲得し②グローバルコラボレーションとして国際的な研究教育を学生時代から経験することで、将来の学生自身の研究やビジネスに活かしながら社会に巣立てるよう教育を推進していくと述べられました。


講演3
3つ目の講演では、竹村彰通先生(滋賀大学大学院データサイエンス研究科長)から平成29年に設置した日本初の滋賀大学データサイエンス学部、令和元年度に設置した滋賀大学大学院データサイエンス研究科の教育について発表がありました。
進学状況について①令和元年度の研究科設置時は、入学者の多くが企業から派遣された人材(企業で業務経験を積んだ上でデータサイエンスの技術を身に着けるために入学した30代、企業の各部門を統括する立場で社員の人材育成をすすめるために入学した40代)が中心でしたが②令和3年度以降は、学部から進学してきた学生が入学したため、様々な年齢、バックグラウンドを持った学生がいることで多様性が生まれていることについて報告がありました。社会人学生は統計等のデータサイエンスの基礎、一方で学部から進学してきた学生は社会人学生が実際に現場で抱える課題について学修することで、双方が刺激を受けているとの説明がありました。
データサイエンティストとして求められる人材は、知識の引き出しが多く、様々な課題を提示されても対応できる人材であることから、修士1年生では機械学習を中心とした様々な分野の分析例について学修し、修士2年生では現場のデータを用いた企業の課題研究や一つの課題に対するデータの収集・処理・モデリング・解釈等、修士論文のための研究を中心に行っていることについて紹介がありました。
企業から大学院に入学することに加え、企業の社内教育・社内研修の依頼を受け企業との連携をすすめることで大学院入学への呼び水とし、修士課程を修了した人材が自社でセミナーを実施することで、産学連携の人材育成を考えていることについて述べられました。
また平成28年に文部科学省管轄の下、数理・データサイエンス教育強化の拠点として選定され、コンソーシアムの拠点として活動しており、来年度からは、9ブロック(現在6ブロック)11拠点のコンソーシアムとなることの報告がありました。
パネルディスカッション
講演に続いて田栗正隆先生(横浜市立大学大学院データサイエンス研究科教授)をモデレーターとし北川高嗣先生(サーキュラーエコノミー推進機構CEO理事)、清木康先生、竹村彰通先生、汪金芳先生(横浜市立大学大学院データサイエンス研究科データサイエンス専攻長)をパネリストに迎え、データサイエンス学部・研究科をもつ各大学が情報共有し、社会が求めるデータサイエンス人材の育成の在り方について意見交換が行われました。




サーキュラーエコノミー推進機構CEOの取組み
冒頭、北川先生よりサーキュラーエコノミー推進機構CEO(※以下、CEO)では、AI・データサイエンスの分野において、優秀な学生を価値創造の中核に据え、能力を最大限に発揮させることで日本の発展に寄与すること、大学側と企業側が考える優秀な学生像に関する溝を埋める取組みについて報告がありました。
加えて日本は医療、製造業において、独自のデータを所有することから、データサイエンスを価値創造の中心に据え、社会に優秀な学生を送り込むことを目的として活動しているとの説明がありました。
CEOが提供している「CEOプログラム」は①世界中のデータサイエンスプログラムの中でも、最も優れているプログラムを日本に合わせた形で展開し②CEOプログラム修了者の給与は、他のデータサイエンティストの平均給与より高いグローバル基準(データサイエンティストの給与額をグローバル基準としない限り、世界の有能な人材を引き抜くことはできない)であり③CEOプログラム実施後には、所属する企業の社長または役員に学修成果を報告する(大学と企業間の信頼関係の形成が重要である)などプログラムの紹介がありました。
パネルディスカッション1 「データサイエンス教育におけるPBL学習」
一つ目のテーマである「データサイエンス教育におけるPBL学習」についてデータサイエンス教育における実践的演習の位置づけ、座学とのバランスについて意見交換が行われました。
清木先生からは、データサイエンスに限らず多くの分野でPBLは必要であること、一方で、研究科は社会人や他学部を卒業して入学する学生もいるため、座学での基礎力習得も重要であり、そのために大学でどこまでサポートするべきか検討する必要があると問題提起がありました。
続いて竹村先生からは、企業内でデータサイエンティストが特定の課題に対応する場合、様々な課題に対処できるよう、データサイエンスに関連する様々な手法を学修することが必要であること、データサイエンティストには、様々な課題に関する引き出しを持ち、実際の課題解決に価値を見出すバランス感覚が求められていることが紹介されました。
汪先生からは、横浜市立大学におけるPBL教育について説明し、企業との対話を通し課題の発見・理解・整理・提案を行い修士論文につなげていること、長い期間での学修となるためモチベーションを維持させるとともに、必要なスキル取得のために統計学や機械学習の座学での講義を行っていると報告がありました。
教育現場における限られた時間内で企業が求める課題解決まで進まない場合や、企業のスピード感に比して時間がかかりすぎる問題について意見交換が行われました。
清木先生からは、学生時代にオリジナルコアやオリジナルソリューションを身に着けることにより、世界中どこでも活躍できる人材を育成することが望ましいとの提案がありました。
また竹村先生からは、大学教育では、課題解決までに時間を要することを企業側に理解・協力してもらう必要があり、また企業側が学生の意見や感覚の聴取を希望する場合など、様々なケースがあるため、企業との調整に配慮し対応する必要があるとの問題提起がありました。
汪先生からは、横浜市立大学データサイエンス学部・研究科では、価値創造の理念のもとにカリキュラムを作成しているが、特に学部生については、スキルが不十分であるため、大学側も努力するが、企業側にも理解してもらう必要がある一方、教員は学生任せにせず、取り扱う課題の内容を理解し、学生を教育する必要があると意見がありました。
パネルディスカッション2 「博士後期課程に進学する学生に期待すること」
2つ目のテーマとして博士後期課程に進学する学生に期待することについて意見交換が行われました。
北川先生は、博士課程の中で競争し、博士号を取得した優秀な人材について企業は十分に理解しておらず、そのために博士後期課程卒業後、修了者の出口がないことを企業が認識していないと問題提起しました。その上でCEOプログラムを学修しデータサイエンティストになることで、データサイエンスを専攻した博士学位取得者は、社会に貢献するとともに、自己充足度が高くなり、想像以上に社会の起爆剤になると考えているとの意見がありました。
清木先生からは、日本には、自然環境の分野で、環境変化、災害等において、多くの知識、対応のための高いスキルがあり、これからの自然環境に関する国際的な貢献が可能であることから、これらの経験を活かして、博士学位取得者が実課題に即した国際貢献をすることが望ましいとの提案がありました。
竹村先生からは、これまではアカデミアの世界に進むことが多かった博士学位取得者について、データサイエンス分野では企業に進む道も開けることから、社会の博士学位取得者に対する見方が変わることへの要望がありました。
汪先生からは、博士学位取得希望の学生には、将来のリーダーになることを踏まえて、現場の要請に対して学術的に抽象化し解決する能力を身に着けるための学修を日々行っていることについて報告がありました。
昨年度に引き続き、今回のシンポジウムにも、全国の大学関係者、企業の皆様をはじめとして、幅広く多くの方々にご参加いただきました。今後も多様な分野で活躍するデータサイエンティスト育成に取り組むとともに、産官学連携を積極的に進めて参ります。