YOKOHAMA D-STEP

YOKOHAMA D-STEP

REPORT

2020.12.14

【開催報告】令和2(2020)年度 YOKOHAMA D-STEPシンポジウム

令和2年10月30日(金)に、横浜市立大学みなとみらいサテライトキャンパスを拠点にオンラインで「実践的データサイエンス教育を考える」をテーマとしたシンポジウムを開催しました。

本シンポジウムは、平成30年度文部科学省採択事業「超スマート社会の実現に向けたデータサイエンティスト育成事業」(YOKOHAMA D-STEP)の取組の一環として実施し、本事業の活動を広く社会に周知することを目的としています。コロナ禍の影響により、令和元年2月の開催を延期しておりましたが、オンライン形式での開催に切り替え実施しました。当日は250名以上の方にご参加いただきました。

当日は小泉和之准教授(横浜市立大学データサイエンス研究科)の司会進行で幕をあけ、山中竹春教授(横浜市立大学医学部教授・D-STEP実施責任者・学長補佐・データサイエンス研究科研究科長)の開会挨拶では、データサイエンス・AIの時代に国全体でデータサイエンティスト育成を推進している中、データサイエンス学部(2018年)とデータサイエンス研究科(2020年)を設置した横浜市立大学のノウハウを活かした特色ある取組であることを紹介しました。

1つ目の講演では、坂巻顕太郎特任准教授(横浜市立大学データサイエンス推進センター)が「横浜市立大学が考えるデータサイエンス人材の育成」について発表しました。この講演では、国が進める数理・データサイエンス・AI教育の目標に対する本事業の位置づけ、特に大学院修士レベルに求められる知識・技能を持った人材育成を目指し、データサイエンティストのみならず、データサイエンティストと協働することのできる非データサイエンティストへの教育プログラムを提供していることが説明されました。また、座学での学習に加え、課題発見から課題解決に向けた提案までの一連のプロセスを、産官の実際の社会課題とデータを用いた実習で学習できるため、社会人が現場で即応できるプログラムが用意されていることを紹介しました。

山中竹春教授
山中竹春教授
小泉和之准教授
小泉和之准教授
坂巻顕太郎特任准教授
坂巻顕太郎特任准教授

次に、令和元年度YOKOHAMA D-STEP受講生である植塁さん、福井大介さん(どちらも現データサイエンス研究科データサイエンス専攻博士前期課程1年次生)が「Project-Based Learning(以下「PBL」という)を通じたデータサイエンスの学び」について発表しました。植さんは、ビジネスや実際の課題にデータサイエンスを活用する手法が学修できたこと、課題を把握している担当者に行うインタビューの重要性、チームでコミュニケーションをとりながら取り組むことの必要性について発表しました。福井さんは、業務でデータを取り扱うことから昨年度D-STEPを受講し、さらに学びを深めるために今年度研究科に入学したこと、D-STEP全般を通して、幅広いデータサイエンスの知識を学ぶことができ、PBLではその知識を活かした学修ができたことについて発表しました。

植 塁さん
植 塁さん
福井 大介さん
福井 大介さん

続いて、孝忠大輔様(日本電気株式会社 AI・アナリティクス事業部 AI人材育成センターセンター長)から「データサイエンスの現状と求められる教育」について基調講演が行われました。データサイエンスの現状、今後のデジタル社会で求められる教育、模擬演習プログラム(PBL等)で何を教えるべきか、データサイエンティストが身に着けるべきスキル等について、貴重なご講演をいただきました。今後、数理・データサイエンス・AIの基礎的な素養は文系理系問わず身に着けるべきであることを自動車免許の取得を例に説明していただきデータサイエンス人材の育成には、座学による知識の修得、ケーススタディなど模擬演習を通じた知識の定着、OJTや継続学習などの実践プログラムを通した教育プロセスが必要であることについて見解が示されました。また、模擬演習や実践プログラムとして、PBLやアイデアソンが非常に有効であること、社会においてはデータサイエンス専門人材(データサイエンティスト)とデータサイエンスを課題解決に活用する人材があること、各スキルを身につける際にも研修・模擬演習・実践プログラムの各段階を経る必要があり、本事業のCコースのような実践的教育が今後必要不可欠であるとの方向性が示されました。

孝忠 大輔氏
孝忠 大輔氏
孝忠 大輔氏

講演に続いて、田栗正隆教授(横浜市立大学データサイエンス研究科)をモデレータとして、孝忠大輔様、乾孝治様(明治大学総合数理学部教授・研究担当副学長)、矢部博様(東京理科大学理学部教授・データサイエンスセンター長)、林裕幸様(株式会社横浜DeNAベイスターズ)をパネリストに迎え、「データサイエンスの専門家と非専門家に求められるスキル」「Project-Based Learningの役割」の2つのテーマについてパネルディスカッションを行い、大学教員、企業人双方の立場から意見交換が行われました。

「データサイエンスの専門家と非専門家に求められるスキル」について、将来的には、すべての大学生がデータサイエンスのリテラシーレベルの学修をし、分析の最低限の意味を理解できる人材が企業に増えることで、専門家と非専門家の間の隔たりが減るのではないかとの意見がありました。またデータサイエンスの専門家・非専門家が協働する場では、コミュニケーションをとることが何より重要であるという意見もありました。

企業の立場からは、データサイエンティストを目指す学生に身につけてほしい素養として、社会に出る前に一通りの経験をPBLで積み、自身の武器となる得意な領域を見つけ、領域に対する興味・関心と柔軟な考え方を学んだ上で、データ分析の結果を伝えるプレゼン能力を磨いて欲しいという意見がありました。

一方、大学の立場からは、すべての学生にデータサイエンスに必要な基礎レベルの数学・統計学等の学修を必修としつつ、データサイエンスの専門家を目指す学生には、社会に通用する指導の一環として、卒業研究で実践的な課題に対応すること、併せて様々なデータを扱う際の倫理観・モラルについての教育を実施していることが説明されました。さらに数理や統計学等の専門分野について大学在籍時に学びを深めてほしいとの意見がありました。

D-STEPにおける「Project-Based Learningの役割」について、企業から提供していただいたデータを使用し、様々なバックグラウンドを持つ受講生と学修できることが有意義であったという受講生の意見があったことが報告されました。またPBL講義で受講生が行うデータ分析から企業側が気づかない新たな課題や意見が発見できる反面、開示できるデータの限界、企業が必要とするデータ分析のスピード感に併せてPBL講義を行うことが難しいとの意見がありました。今後も社会で活躍するデータサイエンティストを育成するためには、大学と企業が協働してPBLを実施していくことが重要であるとの見解が示されました。

「社会人の再教育」について、「実践」は社会で実務に携わりながら身につけることができるが、「理論」については学生時代に身につけておくべきであり、併せて社会人が学修できる場があることが望ましいとの意見がありました。また、業務において「実践」を身につけた目的意識の高い社会人が、あらためて大学で「理論」を学ぶという適切なサイクルを構築することによって、日進月歩が著しいデータサイエンス領域において、社会人が継続的に学びを深めるための質の高いリカレント教育が提供できるのではないかという意見がありました。企業側からは、夜間や週末開講など、社会人が学びやすい時間帯での開講を望むとの意見がありました。

パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子 モデレータ:田栗正隆教授
パネラー右から孝忠大輔氏、乾孝治先生、矢部博先生、林裕幸氏

来賓挨拶として、服部正氏(文部科学省高等教育局 専門教育課企画官)からご挨拶をいただきました。本事業がAI教育に関する国の政策に合致しており、企業と連携した実践的な講義やPBLを行うことが重要であることなど、本事業における取組が広く社会に浸透することへの期待が述べられました。

最後に、汪金芳教授(横浜市立大学データサイエンス学部学部長・ データサイエンス研究科データサイエンス専攻長)より、横浜市立大学ではデータアナリティクス力、データエンジニアリング力、社会展開力を有機的に展開できる人材育成を基本理念として、学部・大学院において基礎を重視つつ、実践型のデータサイエンス教育を行っていること、さらにD-STEPでは基本理念を踏襲しつつ、専門家と非専門家のそれぞれに対するデータサイエンス教育を提供することで、ポストコロナ社会に求められるデータサイエンス人材を輩出していくとの抱負を述べ、閉会しました。

服部 正氏
服部 正氏
汪 金芳教授
汪 金芳教授

今回、全国の大学関係者、企業の皆様をはじめとして、幅広く多くの方々にご参加いただきました。実践的なデータサイエンスティスト育成への関心の高さを受け止め、今後も社会情勢を鑑み、事業を推進して参ります。

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